英語には2種類の〜ingが存在する。「現在分詞(〜している)」と「動名詞(〜すること)」だ。確かに紛らわしい。そしてこの2つは「全く別物」と説明される。本当にそうなのか? 以下の文を見て欲しい......






まず聞こう。Wake up, Tom.「起きなさい! トム!」という文がある。このTomは「何格」か? 英語には「格変化 (以下『曲用』)」というものがある。I--my--me--mineというアレである。英語はその曲用をほぼすべて捨て去ってきた「のっぺらぼう言語」である。従ってはっきりと曲用が残っているのはこの「人称代名詞」だけなのであるが、 普通の名詞にも痕跡らしきものは残っている。Tomで言えばTom--Tom's--Tom--Tom'sとなる。とすれば上の文のTomは「主格」か「目的格」のはずであるが、このいずれでもないことは中1生にもわかる。これは「呼格:vocativus[ウォカーティーウス]」という曲用なのだ。文字通り「人に呼び掛けるときに使う格」である。「呼格」は徐々に「主格」に吸収されてゆき、今では呼格を持たない「印欧(インド・ヨーロッパ)語族」の言語も多い。文から独立して存在するが故に、文中での役割を明示するための曲用をさせる必要がないからだ。ただこのTomを「主格」と教えるには流石に無理がある。「昔は『呼格』ってのがあってね...」と説明くらいはできるように、英語の先生ならしておきたい......






whetherで書き換えができる「〜かどうか」の意のif節は名詞節なので、形式主語itで受けることができるのは当然ですが...

A Comprehensive Grammar of the English Language

15.6 If cannot introduce a subject clause unless the clause is extraposed:
  • Whether she likes the present is not clear to me.
  • If she likes the present is not clear to me.
  • It's not clear to me whether she likes the present.
  • It's not clear to me if she likes the present.

もし〜」の意の副詞節のif節を受けているように見える形式主語itや形式目的語itを用いた文もたまに見受けられます:
  • It would be a shame if the United States were to allow Afghanistan to slip back into chaos.
    「もしアメリカがアフガニスタンを再び混沌に逆戻りすることを許すのなら、残念なことであろう。」
  • People would find it strange if they were charged different sums for exactly the same services.
    「もし全く同じサービスに対し異なる料金を課せられたら、人々は奇妙に思うであろう。」
上の2つ目の例文をもう少し簡単な内容の文に変えて詳しく見てみましょう:
  • People would find it strange if you said so.
    「もし君がそう言うなら、人々は奇妙に思うであろう。」
この文で、人々が奇妙に思うもの=itは「君がそう言うこと」であって「もし君がそう言うなら」ではありません......






「受動態」で「by以外の前置詞を使う受動態」というのを学習する。be surprised at ~やbe interested in ~というものだ。実はこれらは「受動態」ではないし、at/inbyの代わりでもない。ラテン語・ギリシャ語で言うところの「中動態(中間態)」と呼ばれるものだ。surprise「驚かせる」で説明しよう......




goの過去形は何故wentなのか?



中1英語の最後から「不規則動詞」なるものが登場する。wash--washed--washedと語尾に-edをつけるものを「規則動詞」。それに対してbegin--began--begunなどと変化するものを「不規則動詞」と呼んでいる。しかしこれは厳密には「間違い」だ。これらはちゃんとパターンが存在するからだ。そのパターンごとにcut--cut--cut(A--A--A型)、come--came--come(A--B--A型)begin--began--begun(A--B--C型)、buy--bought--bought(A--B--B型)...などとまとめられている。そしてそのパターンさえ暗記すれば、その場で思い出すことができる。これは立派な「規則動詞」ではないか。特に前者を「弱変化動詞」、後者を「強変化動詞」と呼ぶ。

では英語に不規則動詞は存在しないのか? 実は2つだけ存在する。それが「be動詞」と「go」だ。be動詞のam / are / is / was / wereはどう見ても「赤の他人」である。これはそれぞれ全く別の古英語の単語に起源を持つからだ。ただbe動詞の追究は後日を期す。ラテン語でもギリシャ語でも、be動詞はかなり特殊な変化をするからだ。話をgo-wentに絞る。昔はgoにはgoedという過去形があった(後述)。wentにはwendという原形があった(今も辞書に載る)。しかしgoは子を、wentは親を亡くした。そこでgowentの間で目出度く「養子縁組」が成立! 血がつながっていないから顔は全く違うわけだ。このように全く縁もゆかりもない単語を引っ張ってくる手法をsuppletion[サプリーション]「補充法」と呼ぶ。これは動詞に限った話ではない。good--better--bestbad / ill--worse--worstなどがお馴染みだ......







「不変の真理」はなぜ現在形か?



  • The teacher taught us that the earth is round.
    「先生は、地球が丸いと教えてくれた」
これをthe earth was roundとやってはいけない...というのが「時制の一致の例外」だ。だが何故「過去形」ではいけないのか? 改めて聞かれると答えに詰まる。「過去」も「地球」は丸かった。「現在」でも「丸い」。そして「未来」でも「丸いであろう」ということから、「真ん中を取って現在形か!」などと筆者は高校生のころ勝手に考えていた......





文法・読解に偏重しがちだった旧来の英語教育を改めて、より実用的な英語コミュニケーション能力を育成するべく「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能をバランス良く身につけようとする方針が文科省の学習指導要領において押し出されるようになって既に久しいですが、近年ではそれが大学入試制度改革や小学校の英語授業などにおいても少しずつ具体的に反映されるようになってきています......



thatとtheの謎



the richで「お金持ち...」という意味になることは、受験生諸君はご存じだろう。これを「the rich (people)の省略である」と教える先生もいる。無論これは間違いだthe rich peopleでは「そのお金持ちの人々」となってしまう。the rich=rich peopleで「(一般に)お金持ちの人々というものは...」という意味だ。確かにtheは「冠詞」である。冠詞は分類学上は「形容詞」なのだから、後ろに「名詞」を補いたくなる心理はわからないでもない。しかしちょっと考えれば「あれ?」と中学生でも疑問に思うはずだ。いろいろ検索してみたが、「何故そうなるのか?」を説明しているものは皆無だ。故にここからは「鈴木説」として話半分に聞き流してもらいたい。ただしこの説だとthattheのすべての謎が解けるのだ。まず念のため確認しておくと、英語ではtheを定冠詞、a/anを不定冠詞と呼んでいる......





今月号は「文型の嘘」について書く。英語は「私は・愛している・あなたを」でSVOだ。一方日本語は「私は・あなたを・愛している」で一応SOVという語順になる(ように見える)。そして「世界の言語はSVOがスタンダード。日本語が特殊なのだ!」などという、まるで「日本語もSVOにすべきだ!」「だから日本語は原始的なのだー!」などと言っているような言説を時々耳にする。どうして日本人自身が日本語を卑下するのか。不愉快極まりないことである。しかもこれは二重の意味で「」である......