K I R I
 — 茗渓予備校通信 2022年 8月号

小論文とどう取り組むか

夏の終わりから秋にかけて、相談・問い合わせが増えるのが小論文の対策である。小論文が必要であると意識しながらも英語や数学といった主要教科に追われて手も付けずにズルズルとこの時期に至った者、また逆に主要教科が思いのほか伸びないため一発逆転を狙って小論文を始めようとする者、はては受験要項を見てはじめて小論文が必要なことに気付いて慌てて相談にやって来る者など実情はさまざまであるが、まず言いたいことは小論文はそんなに簡単なものではないということである。

国語の教師をしていると、よく「小論を見てください」とか「添削してください」とか言って持って来られる。そうした「作文」を、学校の先生の中には「てにをは」を直したり、かかり受けを整えたりして、それを「添削」と称する方もいたりする。もう一歩進んで、「主張が弱い」だの「構成を見直せ」だの「具体例が多すぎる」といった論文そのものの本質に触れた指摘がなされることもある。そうしたアカの入った答案を生徒は一生懸命手直しをする。何度か手直しをしてひとまず完成となるわけだが、そのプロセスに全く間違いはないものの、そもそもの問題として肝心のもともとの答案が、出題で求められている問題意識、知識量、理解力、発想力といったものをはなはだ欠いていることがしばしばである。添削という以上、渡されたものを直すわけだから、もともとの答案がある程度中身のあるものでないと手直しなどしてもたいして意味はない。中身のない、あるいはトンチンカンな答案をたとえ体裁よく直したところで合格答案には決してなりえないのである。

画像 かつて小論文が入試科目として意識し始められた頃、小論文の大家と持ち上げられたH先生などは「小論文はYES、NOで書けばよい」「課題文を否定すればよい」などときわめて安直な指導がなされていた。たしかにかつてはYES、NOで書けるような出題が多かったのは間違いないが、YES、NOでは書けない出題、YES、NOになじまない問題も当然ある。近年はそうした問題のほうがむしろ主流であるとも言える。そうした出題に対し、投げかけられた問いに対処するだけの知識なり視点なりがなければ、そもそも小論文は成り立たない。つまり、文章の書き方、文章作法といったものを学ぶことはもちろん大切だが、それまでのインプットがそもそも大切だということを忘れてはならない

それは現代文の読解を学ぶこととある意味同じだとも言える。現代文の読解も「読み方」を学ぶだけではいっこうに上達しない。文章のテーマ、使われている語句、前提としている問題意識、そういったものがちゃんと理解され、マスターされてはじめて文章が正確に読解できる。「現代文が苦手です」という生徒には、「読み方」はもちろんのこと、読解の前提である「字」や「ことば」の知識そのものが不足していることが多い。「読む」という行為は18歳なら18歳の、18年の「人生」(少々大げさですが笑)を反映している。その生徒がそれまで「字」や「ことば」にどう接してきたか、どういう意識で生活してきたか、どのような本に親しんできたか、そうしたすべてが読解に反映されるのである。まして文章を書くことはなおさらである。まさに「文は人なり」である。中身がなければ文章など書けるはずがない。中身が薄っぺらであれば、書いた文章も薄っぺらにしかならないのである。

画像  それゆえ、小論文の対策とは小論文に対応できるような自分自身を鍛え上げることである。まずは、問われる内容について語彙面、知識面で不足はないか、しっかりと確認することである。欠ける点があれば早急に補填しなければならない。「ことば」だけではなく「問題意識」「社会性」「時代性」といったものも身につけていなければならない。また、「問題発見能力」が問われることもある。これは近年の傾向であり、文科省が掲げる「思考力」の涵養の一環である。大学、学部によっては「発想力」を問うこともある。これはなかなか手強い問題である。小論文はこのようなさまざまな角度から出題される。その対策は、まさに一朝一夕にはできないものなのである。

とはいえ、小論文の対策をしなければならないとなれば、まずすべきことは受験校の出題形式、出題傾向を確認することである。どういうことがどのように問われているかを知らなくては対策など立てようもない。そして、併願校はできるだけ形式、傾向などが近いものを選ぶことである。形式、傾向が全く異なる受験校の対策を講じることは、受験科目が一つ増えたくらいの負担増となるのである。併願校は第一志望に合わせて考えるべきである。

 出題形式は、一行問題、課題文型、思考力・発想力型と大別できる。一行問題とは、文字通り一行(ときには数行にわたることもある)で問題のみを示す形式である。例えば「正義とはどういうものか、〇〇字で述べよ。」といったものである。課題文型は200字程度の文を読んで「思うところを書け」というものから、5000字ほどの課題文を提示し400字程度の要約を含んだ1000字程度の文章作成を課す(2022年慶応義塾大学法学部)といったハードなものまである。思考力・発想力を問うパターンでは、「窓の外を眺めている少年の写真を示して思うところを述べよ」という出題(2016年順天堂大学医学部)があると思えば、数ページから10数ページの参考資料を示したうえで受験者の発想力を問うような出題(慶応義塾大学SFC)を課すような大学もある。過去問を検討しなければ対策など立てようもない。

出題の傾向も大学によってさまざまである。一般には学部学科の研究分野に即した出題が通例であるが、医学部の場合は医療分野の知識を前提にした出題も当然あるものの、資質や人格を問うような出題も少なくない。他の学部でも、知識を前提とした論理性を問う出題もあれば、問題意識や社会性を問うものもある。問題発見・解決型の出題も増えつつある。いずれにしても大学にとってふさわしい、望ましい人材を選抜しようとしているのである。それゆえ、受験生としてはその求められている人物であることを十二分にアピールしなければならない。そうしたアピールができるよう十分な準備をすることが、小論文の対策である。決して文章作法を学ぶことにはとどまらないのである。