K I R I
 — 2021年 6月号

「センター試験」をふり返る(後編)

前回に引き続き、『「センター試験」を振り返る』の後編(第2部)を報告します。

荒井克弘(元統括官、センター客員教授):ボーダレス化する高大接続

荒井氏は繰り返し、共通一次にしろ、センター試験にしろ(通算40年)、高大接続を意図した大学側からの試験であることを強調されてきた。学習指導要領と各種の高校教科書を大学用に変換し再構成する「過程」が重要である。それに反し、文科省など教育行政当局が見て見ぬふりをしたのは、センター試験が「大学の試験」だという事実である。「調査研究委員会」や「問題作成委員会」がその機能を果たしてきた。「高校教科科目の問題作成にふさわしい大学教員の専門家チームをいかに作るかが鍵となる。学習指導要領、高校教科書から大学の試験を作る作業が根本である。」と熱く語る。

そういえば、高校教科書の執筆陣は大半が大学の教官であり、専門分野の最新の研究成果を背景に作成されている。とくに、理科や社会科は時代とともに内容が変化していることは一般国民の目からも明白である。

今年から始まった「大学入学共通テスト」は、「試行テスト」の段階から、小学校・中学校・高校と、その教育課程を積み上げる線上で問題作成が行われているという批判が多くの研究者から出されていた。とくに国語の記述式問題など、まるでどこかの中学入試の問題ではないかと見まがうレベルであった。50万人におよぶ大規模試験では、技術的にもこうした内容にならざるを得なかったことは、始めから予測されていた。

もう一つの大きな課題は、大学志願者の全入化という事態である。この60年の間に大学・短大への進学率は10.3%から57.3%に増加し、高専と専門学校を合わせると80.1%に達している。進学構造はピラミッド型から台形型へ、そして長方形型に近づいている。つまり、経済的に余裕があり、希望すればだれもが高等教育に進学できるわけだ。また、18歳人口は118万人(2018年)で、高校新卒者が106万人、大学・短大入学者総数が68万人で、そのうち一般入試が34万人、推薦・AO入試が33万人で(文科省統計総覧2018年)、ほぼ拮抗している。高校教育と大学教育の境界はますます見えにくくなっている(ボーダレス化)。センター試験の段階では、個別入試とセンター試験が相まって一応上記の現状に対応してきたが、今回の共通テストを実施するにあたり個別入試に加えて、「学力評価テスト」と「基礎学力テスト」の二本立てで多様化する学力層の現状に対応することになっていたが(中央教育審議会答申)、実際には共通テスト一本に絞られてしまった。「基礎学力テスト」のほうは、高校における基礎学力の定着を図る授業改善のツールとしての「学力の基礎診断」(民間試験の活用、3教科、記述の導入、英語4技能など。すでに私学などでは日常的に実施している。)に姿を変えてしまった。

共通テストは、今回の入試改革で高校教育側(学習指導要領)へ強く引き寄せられた。また、この間の大学入試改革で、センターの研究部門や専門家の意見をくみ上げることが少なく、教育行政主導で強引に推し進められてきたことに強い不満不信を漏らしている(この論考ではかなり抑えられているが)。この点では後継者の大塚氏も同じである。

大塚勇作(元統括官、京大名誉教授):センター試験問題の作成と課題

荒井氏のあとセンターの試験・研究統括官を引き継いできたのが、大塚氏である。センター試験の企画委員会から作成過程、実施に至るまでかつてないほど詳細に記述されている。ここでは、ごく簡単に報告しておくにとどめる。

冒頭、センター共通問題の「妥当性」「信頼性」「識別力」「難易度」といった尺度をテスト理論の視点から学問的に説明したうえで、問題作成過程と実施後の「試験問題評価委員会」まで詳しく解説している。入試改革論議が、とかく主観的かつ感覚的である現状のなかで、センターの研究開発部をわが国の拠点とすることを強く求めている。

鈴木規夫(元研究開発部准教授):センター試験志願者の受験行動と学力特性

受験者約55万人は中核層(国公立専願約10万人+国公私大併願約16万人)と新参入層(私立専願約16万人+未出願約13万人)に大別できる。中核層は共通一次・センター試験を通じ規模も変わらず、ほとんどが5教科を受験し国公立大へ挑戦している。未出願というのは受験しても大学に成績を出願しない層で、とにかく受験するようにという高校側の勧めがあったり、推薦入試やAO入試によって志望校が決まっているのが理由と考えられる。などなど、いろいろな受験行動や各層の学力特性が分析されている。

前川眞一(入試センター特任教授):成績データから見たセンター試験

試験の素点だけでなく、得点の標準化をもっと活用すべきではなかったか。とかく悪者扱いされてきた偏差値であるが、標準化の最も簡単な方法がこの偏差値である。センター試験の忘れ物が2つある。①男女別、現浪別、出身高校の所在地域別などなど下位集団別の学力差の分析。②忘れ物2(例)理科の選択科目の得点調整。今後、この2つは早急な検討が必要である。

センターを担ってきた責任者の提言や研究開発部の地道なデータは、今後の大学入学共通テストの改変に生かしていくべきであろう。