K I R I
 — 2020年 10月号

安倍政権から菅内閣へ

菅義偉氏からフェイスブックで自由民主党総裁就任の挨拶をいただいた。そのなかでとくに目を引いた箇所を引用します。

(日本の国を前に進めるために)役所の縦割り、既得権益、そして悪しき前例主義を打破し、規制改革をしっかり進めていきます…私が目指す社会像は、「自助・共助・公助」、そして「絆」です。自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、地域や家庭でお互いに助け合う。その上に、政府がセーフティーネットでお守りする。そうした国民の皆様から信頼される政府を目指します。

教育行政に絞って、下村政調会長(元文科大臣)と萩生田文科大臣(再任)のラインから推察すると、旧来の自民党の文教政策をつよく踏襲することになると思われます。とくに下村博文氏は、民間の英語資格試験の推進役として大学入試改革に相当な影響を与えることでしょう。安倍政権の時代から内閣官房がおおきな力を持つようになっていますが、現在は過去最多の40分室が置かれています。そのなかで、教育関連では、教育再生実行会議担当室があるのみです。これらの分室には、各省庁から1~2年程度出向している職員を中心に約800人が常駐しているという。従来のような忖度はあまりないと思いますが、官邸の各省庁に対するにらみは相当なものとみられます。

注目されるのは、デジタル庁の新設です。2023年度内だった国の「GIGAスクール構想」(全国の小中に一人1台のパソコンやタブレット端末を配備する事業)の達成目標がコロナ禍を受け、今年度内に前倒しされることになっていますが、このデジタル庁の新設で現実のものになりそうです。期待したい。また、自民党の教育再生実行本部(本部長は元文科大臣の馳浩氏)が、「30人学級推進」を提言していることも期待したい。

共通試験の課題と今後への期待-英語民間試験導入施策の頓挫を中心に

上記の表題で名古屋大学高等教育研究誌に掲載された大塚勇作氏の論文(2020年第20号)をもとに、どのように企画が立案されていったのか問題点を探ってみます。大塚氏(京都大学名誉教授)は今度の大学入学共通テストの準備期に大学入試センターの試験・研究統括官(副所長)を勤められています。センター内部からのレポートとして貴重な資料です。

全体でA4判40ページほどで、とても全体を報告するわけにはいきませんが、英語民間試験や記述式問題の共通試験への導入がどのようにして決められてきたかに焦点を絞って問題点だけを指摘しておきます。

この論文の結論をまとめれば、頓挫したのは、新テストの理念自体は一般的には歓迎されている風潮もあるなかで、入試関係の多くの専門家がそれぞれの専門的知見から懸念の声を上げてきているにもかかわらず、それがまったく解消されないまま、政治・行政主導の強引な入試改革が進められてきたからに他ならないと主張されている。大学入試の背景となる制度や風土の変革についてはほとんど議論が深められず、いきなり試験の内容や方法に焦点が当てられてしまったところに、この度の入試改革が頓挫するに至った一つの要因があると思われる(p.156)。また、教育測定やテストに関する専門家が委員として含まれていないことも、改革の混乱を招いた要因になっている(p.159)。

2016年4月からは、筆者は、新テスト関係の公的会議には、入試改善に関わるべき大学入試センターの試験・研究統括官でありながら、なぜかまったく委員として参加することはなくなった(p.164)。今般の入試改革などでは、センター研究開発部の研究成果はむしろ蓋をされてしまったという事態も経験されており、研究開発部の知見を活用していれば、入試改革の頓挫を見ることもなかったと思われる(p.191)。などなど。

このコラムを書いている最中、菅総理は、政府から独立して政策提言をする「日本学術会議」新会員について、会議が推薦した候補者105名のうち6名を除外して任命したというニュースが飛び込んできました。任命されなかったのは、過去、政府の施策に国会などで反対意見を述べた政治や憲法、行政法などの著名な研究者たちを含む6名です。安倍政権時代の引継ぎらしいが、菅総理、こんなところで前政権を継承しなくてもいいですよ。除外した理由をなんら説明しない加藤官房長官の官僚然とした記者会見には、いささか居丈高しさを感じました。