K I R I
 — 2020年 1月号

ついに入試改革の2枚看板が破綻

予定のセンター試験の後継である『共通テスト』は、英語民間試験の導入が5年後に見送られるとともに、今度は国語と数学の記述式設問が振り出しに戻ることになり、大学入試改革の2枚看板が下ろされることになった。

ここで、英語民間試験の活用と記述式問題導入をめぐる流れを振り返ってみよう。

2013年1月に官邸に『教育再生実行会議』が設置され、その年に財界からは『産業競争力会議』で民間試験活用が浮上し、自民党教育再生実行本部がTOEFL等の活用を提言、10月には実行会議がセンター試験に代わる新テスト導入と外部検定試験の活用を検討するように指示を出す。時の文科大臣は下村博文氏で、私が茗渓塾の塾長をしていたころは、板橋区で塾を経営していた。『あしながおじさん』(交通遺児支援団体)の一期生であった下村氏は玉井代表の強い勧めで都議になったという話を最近耳にした。

例によって、政財界主導で教育改革が促されている様子が窺われる。

2014年12月、中央教育審議会は民間試験の活用で英語力をバランスよく評価することを提言する。翌年3月には『高大接続システム改革会議』が「民間試験の知見の積極的な活用」「2020年度当初からの実施可能性について十分検討」するなどという最終報告を出す。専門部会である『検討・準備グループ』が3案を検討開始し、民間試験活用に支持が集まる。文科省に限らず、国の施策の意思決定はほぼこんなプロセスで進む。8月には文科省は「民間の資格・検定試験を積極的に活用」と方針を明確に打ち出す。2017年7月には2020年度の共通テストから民間試験を活用することを正式発表する。

2018年に入ると大学入学者選抜における英語試験のあり方をめぐって議論が噴出するようになる。2月2日に東大本郷キャンパスで行われた、東大高大接続研究開発センター主催のシンポジウムは、導入反対への大きなうねりを醸成したと思われる。2019年にも同様のシンポジウムが開催されたが、下村博文元文科大臣は自民党の会議で、英語民間試験を入試で活用するよう「文部科学省はよく東大を指導していただきたい」と発言したという。国会レベルで民間英語試験のあり方が問題視されるようになる。しかし、野党としてもあまり関心度は高くなかったが、萩生田文科大臣の国民の貧富の格差・地域格差を是認するような「身の丈発言」を契機に、一挙に政治問題化した。

その後、記述式問題の採点を請け負う(入札で落札)会社を傘下に持つベネッセコーポレーションに対し、文科省は「採点業務の中立性、信頼性に疑念を招く行為があった」として厳重に抗議し、今後是正を促すことを明らかにしている。首都圏約250の高校(約300人の教員)を対象に大学入試改革に伴う自社サービスなどについて説明する際に、共通テストに向けた記述式の採点基準の作成などで助言事業を請け負っている旨の記載があり、模擬試験や対策講座などのほかの営業活動に利用した疑いがあるという。(朝日新聞2019年11月21日付)ベネッセの子会社は、共通テストで新たに導入される記述式問題の採点業務を大学入試センターから約62億円で受託している。契約書の中には、本業務を受託した事実を利用して有利な営業活動をするのは禁じられている。この会社はベネッセのペーパーカンパニーではないかという週刊誌ネタもある。

12月24日、文科省は批判を受け、2016年5月から17年3月まで開かれた『検討・準備グループ』の9回分の議事録を初めて公開した。そこでは、記述式の問題作成から採点業務の課題にわたり、採点のブレや公平性への不安・自己採点との不一致率に関する懸念などが指摘されていたにもかかわらず文科省が突っ走ってしまった様子が窺える。そもそも、記述導入や民間試験活用に大きくかかわってきた安西祐一郎氏(元中教審会長、元慶応大学総長)は、こんな記述式問題になるとは思いもよらなかったと語っている。

 7年に及ぶ茶番劇は一応幕を下ろすことになったが、ここでもう一度、原点に立ち戻って、専門家や当事者(高校の教員や生徒、保護者)を交えじっくり議論することが求められる。